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先日、「ああ。この本を買わなくては!」と
興味を惹きつけられた本がありました。 それは、「司馬遼太郎が考えたこと.1」。 15巻のシリーズで刊行するという、 司馬先生が生前に書き残したエッセイ集の第1巻です。 私は、ろくに司馬先生の作品を読んでいないにも関わらず、 するすると引き寄せられるように、その本を買いました。 私は大学を卒業して以来、 こういうノスタルジックな雰囲気に満ちた本が好きになりました。 「司馬遼太郎が考えたこと.1」には、1953年10月から1961年10月までに、 先生が書いたエッセイがまとめられています。 私が生まれる約三十年前の出来事が描かれている、と考えると、 この本は、まるで昭和時代の歴史の資料のように思いました。 私は戦後という時間に、或る種の幻想を抱き続けています。 だから、こういう戦後特有の“生々しい温度差”のある内容が好きなのです。 厚かましくも、懐かしいとさえ感じてしまいます。 ただ美化してしまっているだけなのかもしれませんが、 戦後の日本を生きた人々の話を聞くと、心打たれることが多いのです。 それは、敗戦直後という、特殊なプロセス(敢えて過程とします)の中で、 若者たちのアイデンティティーが崩壊の危機にさらされることにより、 希望や情熱、素朴さ、逞(たくま)しさ、そして苦悩という人間らしさが、 現代よりも、より鮮明に浮き彫りになった。 そういう哀しい時代性に、郷愁を覚えるからでしょうか。 同時に、現代の若者たちの自我の崩壊が叫ばれて、早数十年。 最も強制的に自我を排他された時代に、純粋に自分らしく生きようとした祖父や父たち。 彼らに尊敬の念を抱くとともに、人格が今より尖っていた自分自身の若き日の姿を重ねて、 少し照れ臭さを感じるのが、無性に心地よく思えるのです。 話を戻しましょう。 この本には、主に先生が記者であった頃(30歳の頃でしょうか)から10年の間に書かれた 89編のエッセイが収録されています。 その中で、私が最も気に入った文章は、こんなくだりです。 間もなく、私は多忙な職業に就いた。ビル街、ビズィネス、そして、映画、コーヒー、野球見物などのささいな都会的享楽、こうしたものが私の若さを、日の経つのも忘れ、ある限り燃焼させた。この環境におかれた若い魂にとって生と死のことを思い出させることは想像以上に困難である。(-略-)しかし、それでも、死はやってくる。(※1) 私は、先生のこの文章を読み、ただ、胸が震えました。 見透かされている、というのが率直な感想です。 また、それとともに、自分より何十年も前に生きていた人が、 同じようなことを考えていたのか、と考えると、妙に慰められたように嬉しくなりました。 このエッセイ集は、純粋に面白いです。 若い方なら、先人に学ぶことが多いかと思いますし、 ご年配の方なら、一線置いた立場で、若き日を懐かしむことができるかもしれません。 幅広い年層の男性に、ぜひ読んでいただきたい一冊です。 (※1) 『それでも、死はやってくる』より引用。
by katefactory
| 2005-02-13 22:39
| 小説・文庫本など
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